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かつおだしは脳を育てる?

 私たちの消化管と脳はそれぞれの活動に影響を及ぼしあっています。これは脳腸相関と呼ばれ、情動行動や脳の発達に少なからぬ影響を及ぼしていることが明らかになりつつあります。実際、食生活そのものが児童や若年者の身体的発達のみならず、精神的健康とその発達に影響を及ぼすことが様々な研究によって示唆され、とりわけ伝統的な食事に注目が集まっています。
 その伝統的な和食のレシピに欠かせないのが「だし」であり、特にかつお節から抽出されるかつおだしは、その独特の味覚と風味で古くから親しまれ日本中で広く使われています。これまでの研究により、かつおだしには肉体的・精神的健康に効用があることが明らかになっております。また、1ヵ月間のかつおだしの摂取によって精神疲労の自覚症状や感情障害が改善したとの報告もあります。加えて、マウスを用いた研究において、かつおだしの摂取後、脂質代謝が促進され、強制遊泳や強制歩行などの運動負荷をかけた場合での運動持続時間が延長することも報告されています。さらに、富山大学の西丸らの研究により、かつおだしを若年マウスに摂取させると、攻撃行動とうつ様行動が低下することも確認されました。これらの知見はかつおだしが、ヒトにおいても脳機能の成熟や情動の発達に寄与している可能性を示唆するものです。
 近年、かつおだしを含めた様々な伝統食やきちんとした食習慣が精神神経疾患(自閉症、うつ病、反社会的行動、多動性障害など)の症状を緩和する可能性が明らかになりつつあります。例えば、小児の中には好き嫌いの激しい子供がおり、このような小児では偏食だけではなく、同時に社会性や衝動性の障害があり、さらには自閉症や多動性障害との合併もみられることが報告されています。同様に、食習慣の乱れが関与しているメタボリック症候群はうつ病との相関が高いことが報告されていますし、脂肪や糖分を多く含むファストフードなどは、脳内酸化過程を促進し、うつ病の発症に関与するといった研究結果もあります。加えて、不安障害、双極性障害、攻撃行動などの問題行動の発現は小児期に多いものですが、ファストフードから伝統的食事パターンへの変更により、これらの症状が改善することも知られています。
 このように、現在、様々な食品の摂取と脳機能が密接に相関していることを示す研究報告が集積されつつあります。特に、うま味と脳の関係は興味深く、例えば、氷温熟成技術によって、うま味成分を増加させた食品の開発と普及は、脳をより良く育てることに繋がるのかもしれません。様々な研究にて得られた知見を検証した後、家庭や学校などでの活用に向けた実践的な取り組みも今後、重要になってきます。

引用・参考文献  
 1)西条寿夫(2017)うま味と脳:うま味が脳を育てる 1, 日本味と匂学会誌, 24, 67-69.  
 2)西丸広史ら(2017)うま味と脳:うま味が脳を育てる 6,日本味と匂学会誌, 24, 97-103.






 
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