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やみつきになるおいしさとは?

食品に対する嗜好がすなわちその食品のおいしさです。おいしさは個人の食嗜好により表されるものであり、同じ食品に対して好き嫌いが分かれることもしばしばです。それ故、おいしい食品、まずい食品、など食品の側からおいしさを分類することは困難ですが、食べる側の嗜好という観点からおいしさを解析すると、いくつかの共通項を見いだすことができます。個人の嗜好を形成する因子は大きく次の4つにわけられます。
 (1)生理的欲求に基づくおいしさ
 空腹は最高のソースであるという格言にもあるように、生体の生理的状態は食品のおいしさに大きく影響を及ぼします。喉が渇いたら水が飲みたくなる、疲れたら甘いものが欲しくなるといった恒常性維持のために必要な栄養素をおいしいと感じる感覚は最も基本的かつ重要なおいしさの形成要因です。
 (2)食文化に基づいたおいしさ
 幼少の頃から食べてきた経験の有無はその食品のおいしさに大きな影響を及ぼします。長く食べ続けてきた食品は、食べても大丈夫という安全が保障されているからです。
 (3)情報がもたらすおいしさ
 賞味期限はもとより、産地の違いやマスメディアによる評価や口コミ等、莫大な量の情報が食品に添えられていますが、我々は情報に頼っておいしいかどうかを判断している部分が大きいものです。
 (4)やみつきになるおいしさ
 食品や料理のおいしさは、食品を味わった直後に起こるおいしいという快い感覚(快感)と、それによって引き起こされる「もっと欲しい」という行動(執着)に分けて考えられています。この快感と執着が連動して起こるのが報酬系です。ここでいう報酬系とは、脳において、欲求が満たされたとき、あるいは満たされることが分かったときに活性化し、その個体に快の感覚を与える神経系のことを意味しています。報酬系の伝達信号には脳内麻薬物質が大きく関わっており、おいしいという快感覚に直接的に関係しているのは、βエンドルフィンやベンゾジアゼピンであるとされ、また、さらにもう一口食べたいという獲得行動に駆り立てるものがドーパミンであるといわれています。この、もっと欲しい、という感覚が非常に強力になるとやみつき(=執着)が生じます。すなわち、やみつきになる食品とは、脳の報酬系を刺激する、快感をもたらす食品のことであり、先の(1)生理的欲求に基づくおいしさでご説明しました生体の恒常性維持とは別に位置づけられます。従いまして、恒常性維持のためでもなく、食文化や情報がなくとも、ほぼ万人にとっておいしいと感じられる食品であり、これまでにわかっているやみつきの代表食品は油、砂糖およびダシの風味などです。
 マウス等動物を用いた食品や料理に対するやみつき効果を検出する方法による食の快感と執着性に関わる研究がさらに進むことにより、「食のおいしさ」の理解が一層深まることが期待されています。

引用・参考文献
 1)佐藤雅美(2004)「料理の科学-おいしさの秘密-」、ナツメ社、東京.
 2)山本隆(2011)おいしさの生理学. FFI JOURNAL 216(4):302-308.
 3)山崎英恵、伏木亨(2011)おいしさの理解と応用. FFI JOURNAL 216(4):309-315.






 
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